さらに、問題は法的根拠だけでは有りません。人道的介入はよくselective(選択的)だと批判されます。というのも介入国は自国の便益や、国内の世論の様子を見た上で初めて動く訳で、恒久的な人権保護の価値観で行動している訳ではないからです。具体的には、現在進行形で市民の血がながれているシリアには多国籍軍は介入していませんし、内戦が未だに続くソマリアではアメリカですら状況の改善を待たずに撤退しました。
「人権」の概念の発明は近代の人間倫理の向上に大きく貢献しましたが、実際にそれを守ることを考えたときには、いまだに多くの壁と問題が有るというのが現実です。人道的介入をしっかりと機能させていくには、1)「守る責任」の確立、2)安全保障理事会や特定の大国の思惑ではなく、きっちりとした介入原則が提示できる国連部隊が必要だと思います。1)に関しては説明すると、基本的に全ての国家は自国の市民の生命と安全を保証する責任があり、それが遂行できなくなった時は他国が介入して代わりにその国の市民を保護する、という原則です。
これらの現状と課題をふまえて、国際社会が一刻も早く人道的介入の矛盾点を解決し、真に市民の安全保障に役立つものになれば、人道的介入は国際社会の中での確立されたモラルスタンダードになりうるのではないでしょうか。